豊橋の飲み屋だった。
しらないおっちゃんと乾杯した。
カウンターの常連たちはカラオケを歌った。
何の歌かよく知らないけど、いちいち歌詞がしみる。
モニターに映った歌詞をデジカメで撮る。
「なあ酒よ お前にはわかるかなあ 酒よ」
「馬鹿をするときゃ必死でやって」
「悔いを残さず歩きたい」
「好きでいるうちに許してあばよ」
酔ってると歌詞がどんどん体に染みてくる。
オレは歌になっちゃったんじゃないか。
そんな狂った酔いに、命は跳ねてるというのか。
あんな旅がまたしたい。
知らない街の、知らない夜の、
知らない人の、好きな歌。
マイクが回ってくる。
にいちゃんも歌いなよ。
いや、俺はいいっすよ。
デン、とマイク。
ぶん回す、人生。
かすりもしなくてもいい。
あたらなくてもいい。
お前の人生にしか、歌えない歌がある。
春に穴をあけるように
2021.3.9