久しぶりに線路沿いにある珈琲屋へ向かっていました。
Kくんが好きだった自家焙煎コーヒーのお店。
Kくんは発狂して死んだが、僕は彼が好きだった。
タバコをうまそうに吸い、激ウマのコーヒーを淹れてくれた。
ピアニストの肖像画を油絵で描いていた。
ぼてっとした輪郭、色。彼が求めていたぬくもりが、
Kくんが死んでからもたまに思い出すようにその店に行った。
何年かぶりにその店を訪れようと電車の窓から店を探した。
線路の高架事業で線路沿いは空き地がたくさんあった。
イヤな予感がした。まさか、と思ったが、やはり、店はなかった。
一応駅で降り、線路沿いを歩いた。
店はなかった。
周りの店もなかった。
ぼーぜんと立ち尽くし、携帯で写真を撮った。
線路沿いを女の人が歩いていた。
秋空は真っ青で、白いパンツ姿が鮮やかだった。
健康的なお尻は堂々と、冬へ向かっていた。
強く、勇気をもらった。
歌は降りてくるのではなく、歩いている。
私はすぐに携帯に「冬へ向かうお尻」と打ち込み、
未送信フォルダに入れた。
街からあなたへ。
歌から歌へ。
共鳴する夜を、いただきます。
ちゃっとだけよ。
そんなくだらないこと言うなって。
もしよかったら、一夜を共に。
冬へ向かうお尻同士。
光速で流れる星の彼方で。
2020年11月5日
二回目の配信ライブへ向けて
前野健太