MAENO KENTA

LIFE

ライフ

2020.11.5

久しぶりに線路沿いにある珈琲屋へ向かっていました。
Kくんが好きだった自家焙煎コーヒーのお店。
Kくんは発狂して死んだが、僕は彼が好きだった。
タバコをうまそうに吸い、激ウマのコーヒーを淹れてくれた。
ピアニストの肖像画を油絵で描いていた。それもたまに見せてくれた。
ぼてっとした輪郭、色。彼が求めていたぬくもりが、そこにはあった。
Kくんが死んでからもたまに思い出すようにその店に行った。

何年かぶりにその店を訪れようと電車の窓から店を探した。
線路の高架事業で線路沿いは空き地がたくさんあった。
イヤな予感がした。まさか、と思ったが、やはり、店はなかった。
一応駅で降り、線路沿いを歩いた。
店はなかった。
周りの店もなかった。
ぼーぜんと立ち尽くし、携帯で写真を撮った。
線路沿いを女の人が歩いていた。
秋空は真っ青で、白いパンツ姿が鮮やかだった。
健康的なお尻は堂々と、冬へ向かっていた。
強く、勇気をもらった。
歌は降りてくるのではなく、歩いている。
私はすぐに携帯に「冬へ向かうお尻」と打ち込み、
未送信フォルダに入れた。

街からあなたへ。
歌から歌へ。
共鳴する夜を、いただきます。
ちゃっとだけよ。
そんなくだらないこと言うなって。
もしよかったら、一夜を共に。
冬へ向かうお尻同士。
光速で流れる星の彼方で。

2020年11月5日
二回目の配信ライブへ向けて
前野健太

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