MAENO KENTA

LIFE

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「いつものように」

「いつものように」

 松本シネマセレクトでワイチャイのライブができる、と聞いて、ただのライブには当然ならないだろう、と思った。松本シネマセレクトはライブの呼び屋ではないし、以前お世話になった時は自分の出た映画の時だったからだ。やはりここは映画とライブの組み合わせがいいだろう、そう思った。何の映画にするか。主催の宮さんと打ち合わせをした。ワイチャイを作ったことでワガママが出てきた私は、ここはとにかく好きな映画で、強く残っている映画にしたい。リバイバル上映などもされていなくて、二番館とかでもかからない、ネットでも見られない。そういうものがいい。頭の中には一本の映画しかなかった。けんもち聡監督の『いつものように』。これしかない。宮さんに伝える。では色々当たってみましょう。乗ってくれる。ありがたい。しばらくしてメールが来た。昔の電話番号、事務所、大学、色々当たっているが検討がつかない。権利もどこが持っているか分からない。ああ、そうか、、。ああそうか、じゃない!お前も動かんかい!とうことで自分も動く。パーンと思いついた。そうだ。あの方なら知っているんじゃないか。緊張しながら電話をする。出てくれる。お久しぶりです。。

 私が『いつものように』を観たのはたぶん20年前くらい。駅前のレンタルビデオ屋でVHSのテープを借りた。当時風呂なしアパートに住んでいたので、夜寂しさを埋めるように、よくビデオを借りて観ていた。カウリスマキの『パラダイスの夕暮れ』なんて映画ものちに映画館で観たが、この風呂なし畳のアパートで寝転がって観たビデオの方が、とてもロマンティックに感じたものだ。『いつものように』はどうして借りたのか。それは覚えていない。パッケージか、裏の文章か。なんかこういうの好きだな、と見る前から思っていた気がする。そして観た。好きだった。この映画の中に流れている空気が、とてつもなく好きだった。ああ、この映画は自分にとって特別なものになる。「けんもち聡」という名前も強く刻まれた。それから『ここに、幸あり』を観た。パンフレットがあるので、おそらく映画館で見たのだろう。これも好きだった。やはり映画の中の空気感が、好きだった。偶然だが松本オールロケの映画もある。『今度の日曜日に』。これも映画館で見た。ただ、それから新作は撮っていないようで、たまに思い出しては検索をかけて情報を探していた。

 しばらく経って知らない番号から着信があった。日曜日の夕暮れ時だった。ちょっと酔っていた。普段は知らない番号は出ないが、ピーンと来た。まさか!折り返すと、まさかの、そのまさかだった・・・

 『いつものように』が16mmのフィルムで上映される。オリジナルフィルム。こんなことがあっていいのだろうか。いや、これが人生というやつなのだ。その後に自分などが歌っていいものだろうか。いや、思い切りやらないと、失礼になるだろう。「青春」という言葉があるのなら、それは生きているということに他ならないだろう。今がまさに青い春のど真ん中で。新緑は毎年必ず、巡ってきてくれる。その度に、ああ綺麗だねえ、と呟くのだから。
 この青春映画が20年経って、自分にどう響くのか。血の中に、何を巡らせてくれるのか。特急電車に乗って、確かめに行こうと思う。

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